短編小説

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陸;これは脂肪?それとも希望?②

運ばれた病院には精神科があり、その日のうちに強制入院を言い渡された。食事も管理され、薬も開けた口に乗せられ飲んだことを確認され、情報というものは一切禁止、当然スマホも。そして面会は希望者1名のみ、ならば私は武史がいい。その選択に間違いはなかった。彼は仕事終わりに「いつもと同じ」武史で私に会いにきてく […]

陸;これは脂肪?それとも希望?①

太陽を遮るカーテンが優秀すぎ昼夜がわからない部屋の中、僅かな明かりが点滅をする。はぁ、朝か。憂鬱な気持ちでスマホを取る。 「今日は何キロ?」 のろのろとベッドから抜け出して、乾いた喉もそのままにトイレへ向かう。なるべく軽くなっていなければ、ざらつく気持ちで下着姿になり体重計に乗る。今日の体重をスマホ […]

伍;真実の仔

あぁ、峠を越した。 安堵し強く握りしめていた手を開く。掴みかかり揺さぶった時に抜けたであろう、我が子の髪の毛。昔はやられっぱなしだったのに、中学に入ってから抵抗するようになった。子供と言っても男性だ、振り払う腕の力に怯みそうになる。 だが、その抵抗がまたしても腹が立ち、ますます感情が昂ぶってしまう。 […]

【幸】壱;月見草と向日葵と

プールサイド、照りつける日差し、急がないと溶けてしまうアイスキャンデー。 掃除機をかけるため窓を開けると、真夏の太陽が自慢げに季節を誇示している。懐かしいな、姉と通った市民プール。母に100円玉を2つもらうのだ。何色のアイスキャンデーを買おうかな、姉と手を繋ぎ歩いた熱を帯たアスファルト。 色白の姉と […]

肆;やっぱり私が大好き愛してる 後編

私はそもそも結婚式に興味がなかった。だから、進行表も席次表もさらっと目を通しただけ。マタニティハイなのか、私の興味はお腹の子だけだったから。 祝福の行進曲が高らかに鳴り響き、会場への扉が開いた。たくさんのフラッシュにスポットライト。光が強くて来賓の顔がよく見えない。 エスコートされ、あふれんばかりの […]

肆;やっぱり私が大好き愛してる 前編

今日の主役は間違いなく私。私をドレスを「綺麗、すごく似合ってる」そう口々に褒めてくれる。お腹の子供も喜んでくれているかな?そう、授かり婚というやつ。 36歳、得に結婚願望はなかったが、産むことも籍を入れるのも、まぁ成り行きってやつだけどすんなりと決まった。主人となった相手は元彼。仕事が最優先の400 […]

参;餌付け。後編

にわかに信じがたいだろうが、新人さんと私の間に体の関係は全くなかった。自分の肉体を晒す自信がないのはもちろんだが、それ以前に新人さんにそんな事を望んでなどいなかった。 なぜ? そうだ、なぜだ?散々餌付けをしても距離が変わらない。割りに合わない、そう思うのが普通だろう。自分でも不思議だったがある時気が […]

参;餌付け。前編

そんなつもりは毛頭なかった。浮気する人間は大抵そう言うが、私も例外ではなかったな。 初めは自分に関心を持って話を聞いてくれるのが単純に嬉しかった。 このまま小さいながらも自分が経営する仕事場と連絡事項しか話さなくなった見慣れた家人のいる家との往復で終わるんだろう。まあ、他所もこんなもんだ、安定した人 […]

弐;睡蓮の花言葉「純粋な心」

凛、あなたの髪はまるであなたそのもの様に真っ直ぐで美しい。そう、母が私をとろけさせる甘い言葉をささやく。 「可愛い可愛い私の凛、あなたは夏に生まれたの。真夏の池に咲く睡蓮の花のような気高く美しい姿でね。だからあなたに凛(りん)と名付けたの。太陽のように明るく愛され、きっと将来美人になるわ。とても楽し […]

壱;最高の目標をお前にくれてやる

ある日、とうとう恐れていた一線を超えてしまった。我に帰った時にはもう全てが後の祭りだった。とんでもない事を、私はやらかした。 息子の頭部に、息子が授業で作った陶器を、重量のある、彼自身が作った作品を、怒りの衝動を押さえ切れず感情の波に抗おうともせず、躊躇なく思い切り振り下ろしたのだ。額を、私自信が青 […]