短編小説

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漆;ポケットに「なんじゃこら」と愛を

私の日常は穏やかな水面のようで、可もなく不可もなく至って平凡である。でもある日、私のポケットに凄い事が起きた。人生初の「なんじゃこりゃ!」だ。 駅で電車を待ちながら、なんともなしにコートのポケットに手を入れた、ん?んんん?何か柔らかい物が入っている?!掴んだらダメそうな柔らかさ…嫌な予感しかない。急 […]

玖;愛だと思ってた

私に触れる優しい指先も私を包み込む頼りがいのある腕も私だけに紡ぐ静かに溢れる情熱も全てが愛だと思ってた 初めての恋だったそこには誠実しか存在しない純粋で混じり気などなく美しいとさえ感じていた 残念なのは私は誰の目にも若者で彼は誰に目にも大人で他者の理解は得られない事だった 出会いはよくある話生徒と先 […]

陸;青年は清らかな光合成で生きてる

今宵は『起承転結』で構成されたとある青年の物語を君に聞かせようと思う。 さぁ遠慮せず食してくれたまえ。私はようやく手に入れたこの貴重なコニャックを味わいたいのでね。君も好きな飲み物を、そうだこのベルを押したまえ。 私のいつもの気まぐれだ、遠慮せず自由にやってくれたまえ。ただ一ついいかね?これから話す […]

伍;愛してるよ、風

風《ふう》?今日も呼んじゃったね。ごめん、大好きだよ風《ふう》。 秋の柔らかな陽だまりの中、毛布にくるりんとおさまって気持ちよさそうな風《ふう》。僕の素っ気ない返事がお気に召さなかったようで、ぷぅっと頬を膨らまし可愛らしく僕を睨んできた。睨むその姿さえ可愛いよ、風《ふう》。名前のように、ふわふわでさ […]

肆;我が人生の全てを咲凜へ捧ぐ

伝えたい言葉はもう決まっている。あとは叶えるべく全うするだけだ。みていておくれ、私の奮闘を。 咲凜(えみり)と出会ったのは彼女がまだ十代の頃。弟の敦(あつし)の友人の一人で、どこか異国を感じさせる意思の強そうな大きな瞳が印象的だった。だが印象に残っただけで後に人生に深く関わるような何かは感じなかった […]

捌;神様、どうかお導きを。

神様、この世はどうして辛いこと哀しいことがあるのでしょうか?寂しさも心の痛みも、一人乗り越えようやく辿り着いた安住の地ですらどうして幸せなままではいられないのですか?神様は試練と呼ばれるのですか?もしそうだと仰るのならこの世は試練の連続なのですね。 心が痛みを訴えています。悲しいよ、辛いよ、痛いよ、 […]

【幸】参:恥を知れ

恥を知れ人の真似ごとでよく笑ってられるよな 鏡をみてみろ卑しく汚れたその面を 俺が捻り出したアイディアをいとも簡単に利用しやがったお前のことだよ、自覚あんだろ?だからお前の面は汚ねえんだ、隠しきれねぇ卑しさが漂ってるもんなぁ。胡散臭くてしょうがねぇ。さぞかし気分いいだろうよ、おっさん。パクったなんて […]

漆;手塩にかけて、頑張れ私

手塩にかけて願いを込めて明るい未来を信じて生きろ 頑張れ私頑張れ私 あぁ、すまないね、適当に座って。ん?わかった、お茶くらい出そうと思ったけど余計か。あたしの朝?遅いんだか早いんだかよくわからないけど、旦那の出勤日によるよ。三時か四時半に起きてあそこの狭い台所で旦那のおにぎり握るの、毎朝。塩を混ぜる […]

【幸】弐:刻んだ愛の重さと証明

空が澄んでとても綺麗私は私でいいそんな証明の日だ 愛されたいだけだったそして愛したいだけだったいつも私の愛は受け入れてもらえない 何がいけなかったの?お前の愛は重すぎる 愛した人はみな苦痛に歪んだ顔で去っていった今度こそ、今度こそ大切に壊さないようにそうっと愛を育てようと頑張るのに上手くいかない 家 […]

陸;これは脂肪?それとも希望?③完結

深海で永遠に人の目に触れず息をしていたい。そんな搾かす程度の希望ですら叶わなくなった私の人生。 荒んで淀みきった家の中でどんなに努力をした所で変わらない。勝手に産んでおきながら感謝を強要する父の恩着せがましい台詞を聞くのはもううんざりだった。だから大学に進学する気などさらさらなく、早く社会に出て働き […]

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